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山田教授研究概要

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 ヒトゲノム計画によるヒトゲノムの全塩基配列の決定、国際HapMapプロジェクトによる白人・黒人・中国人・日本人における一塩基多型(single nucleotide polymorphism, SNP)やハプロタイプの決定およびタグSNPsの特定、1000人ゲノムプロジェクトによるアリル頻度の低いrare variantの解明、ならびにDNAマイクロアレイ、SNPチップおよび全エクソン・全ゲノムシークエンシングなどの大量の情報解析技術の発達によって個人個人における遺伝情報の相違を検出することが可能になり、ポストゲノム時代からパーソナルゲノム時代に移行した。これらのゲノム情報を利用して、ある個人に最適な予防法や治療法を選択する個別化医療(personalized medicine)は、投薬前から治療効果や副作用を予測できるため、安全かつ有効な治療が可能になると期待されている。さらにゲノム創薬による新薬の開発により、今後治療成績が飛躍的に向上する可能性もある。また、疾患感受性遺伝子のSNPsなど生活習慣病の発症に関する個人の遺伝要因が解明されつつあり、遺伝子多型情報に基づくアプローチは、生活習慣病の予防対策にも貢献できると期待されている。
 近年のSNP解析方法や検査機器の急速な進歩により、200万種類にも及ぶSNPsを短時間かつ安価に検査することが可能になり、SNPsを用いた関連解析の主流は、候補遺伝子アプローチからゲノム全領域関連解析(genome-wide association study, GWAS)に移行した。特に2008年以降はGWAS論文が世界的に急増し、2014年4月2日の時点で1879編のGWAS論文が発表され、さまざまな疾患や形質に関連する13,026種類のSNPsが報告されている(http://www.genome.gov/gwastudies/)。この中には日本人に関するGWAS論文も含まれているが、欧米の白人に比べると日本人のデータは極めて少ない。日本人と白人・黒人では遺伝要因だけでなく食習慣などの環境要因が異なる。実際に欧米の白人で同定された疾患感受性遺伝子のSNPsの中には日本人には認められないものが多く含まれている。また逆に日本人で特定された疾患感受性遺伝子のSNPsが欧米人では認められないこともある。このように、今までに行われた多くの疾患のGWASにおいて、欧米の白人や黒人と日本人との間で疾患感受性遺伝子が異なる例が多く認められる。したがって、日本人の疾患感受性遺伝子を特定するためには日本人の集団において探索することが必要不可欠である。
 上記のように、欧米の白人を中心としたGWASにより生活習慣病の発症に関連する多数のSNPsが同定された。しかし、これらのSNPsはアリル頻度が比較的高い(5%以上)common SNPsであり、疾患感受性においてそれほど大きな影響を及ぼしていないことが明らかになった。例えば、一卵性・二卵生双生児の疫学研究から心筋梗塞の原因のうち遺伝要因が40〜50%を占めることが知られているが、大規模なGWASのメタアナリシスにより、GWASで同定されたSNPsでは遺伝要因の 10% しか説明できないことが明らかになった。残りの説明できない遺伝要因は「失われた遺伝性(missing heritability)」と呼ばれ、その原因として以下の点が考えられている。(1)今までのGWASでは、国際HapMapプロジェクトで報告されたマイナーアリル頻度が5%以上のcommon SNPsを用いていたため、アリル頻度が低く効果の大きいSNPsを見逃していた。(2)遺伝子間の相互作用(gene-gene interaction)および遺伝因子と環境要因の相互作用(gene-environment interaction)が検討されていなかった。(3)DNAのメチル化やヒストンの修飾などのエピジェネティックスの要因が検討されていなかった。これらの点を解明することが次世代GWAS研究の大きな焦点となっている。
 三重大学生命科学研究支援センター・ヒト機能ゲノミクス部門、三重大学大学院医学系研究科基礎医学系講座遺伝子病態制御学および三重大学疾患ゲノム研究センターは、循環器疾患を始めとする種々の生活習慣病の発症・進展や重症度との関連が強い疾患感受性遺伝子のSNPsを特定し、病態における役割を分子レベルで解明することにより、疾患の新しい個別化予防法および治療法を開発することを目的として研究を行なっている。多施設共同研究により、循環器疾患(心筋梗塞・冠動脈疾患・高血圧・冠動脈ステント内再狭窄・大動脈瘤・心房細動)・脳血管障害(脳梗塞・脳出血・くも膜下出血)・代謝疾患(2型糖尿病・脂質異常症・肥満・メタボリックシンドローム)・腎疾患(慢性腎臓病)などの生活習慣病と多数の遺伝子多型との関連について詳細に検討している。脳梗塞(Yamada et al. Atherosclerosis 2009)、心筋梗塞(Yamada et al. Atherosclerosis 2011)、慢性腎臓病(Yamada et al. J Med Genet 2013)に関しては、日本人集団においてcommon SNPsを用いたGWASを行い、それぞれの疾患に強く関連するSNPsを発見した。今後さらに大規模な疾患ゲノム研究を展開する予定である。即ち、大規模集団においてゲノム全領域関連解析を行なうことにより冠動脈疾患・脳血管障害・高血圧・2型糖尿病・脂質異常症・慢性腎臓病・肥満・メタボリックシンドローム・大動脈瘤・心房細動などの生活習慣病の発症に関連する「効果の大きい新規の機能的SNPs」を同定し、食事・運動・喫煙・飲酒などの生活習慣を加えたデータベースを構築することにより、それぞれの生活習慣病に関して精度の高い「個別化予防システム」を開発する。さらに、疾患の分子病態を解明し、生活習慣病の新しい治療法の開発を目指す。また、動脈硬化の進展に関連する遺伝子のメチル化および脱メチル化についてゲノム全領域での解析を行ない、動脈硬化の発症進展におけるエピジェネティックスのメカニズムを解明する(2014年4月)。 photo

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