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安河内助教研究概要

主な研究の興味は、生活習慣や気候などの環境の変化がヒトの生体メカニズムに及ぼす影響を分子レベルで明らかにすることです。我々現代人Homo sapiens の祖先は、約20万年前にアフリカで誕生し、約10−5万年前にアフリカを出て全世界に広がったといわれています。様々な地域に広がっていく過程で、気候や1日の日照時間は地域により違い、未知の感染症の流行や異なる食料資源など、それまでとは全く異なる環境に適応する必要があったに違いありません。そのためには、概日リズムや免疫系、基質代謝などに関わる遺伝子に変異が起こり、その地域特有の環境に適した生体メカニズムを獲得するように進化してきたと推測されます。そこで、ヒトの生理機能や生体防御に関わる分子の進化を読み解くことで、人類が環境の変化(気候などの気象要素だけでなく、生活習慣などの生態学的要素も含む広義の環境の変化)に対してどのように身体的に適応してきたかを理解することを目指しています。また、生存に必須でなくなったことから機能が失われた遺伝子の進化的意義にも注目して研究を行っています。 photo

さらに、日本人における生活習慣病に感受性がある一塩基多型(Single Nucleotide Polymorphism, SNP)の同定を行っています。生活習慣病の発症は遺伝要因だけでなく、環境要因も強く影響します。したがって、集団間の生活習慣病発症に関わるSNP(頻度)の違いは、各集団の進化的背景の違いを反映すると考え、日本人にみられる生活習慣病の感受性SNPと集団の歴史との関係を調べています。

1.縦断的GWASによる生活習慣病感受性SNPの同定

日本人を対象に、同一個体を長期・継続的に調査する縦断的なゲノムワイド関連解析(Genome-Wide Association Study,GWAS)を行っています。個人に対してゲノム網羅的にSNPを決定し、”複数の時点”の個人に対して生活習慣病発症の有無を追跡して、生活習慣病の発症に関連するSNPの同定を行っています。また、日本集団だけでなく、ヨーロッパやアフリカなどの他集団における候補SNPの頻度をデータベースで調べ、集団間の遺伝的背景や病気の罹患率、生活習慣・文化の違いなどを考慮に入れ、包括的に遺伝要因−環境要因−生活習慣病との関連を検討します。

2.高地適応関連遺伝子と生理的多型との関連

 現代人の高地適応関連遺伝子群(EGLN1遺伝子などの)SNP解析を行い、日本人を対象に、遺伝子多型と生理的多型(動脈血酸素飽和度、心拍数、血圧など)の関連性を統計学的に検定し、生理的多型の原因となる可能性のある遺伝的変異を探索しています。また、長崎大学の研究グループと共同して、南米ボリビア高地定住集団の全ゲノム塩基配列を調べて、同集団の高地適応に寄与した遺伝子多型の同定を試みています。さらに、九州大学の研究グループと共同して、日本人の急性低圧低酸素曝露・寒冷曝露に対する生理応答に関係した遺伝子を探索するため、エピゲノム・トランスクリプトーム解析を行っています。

3.免疫系関連分子の進化メカニズム

免疫応答に関与するヒト白血球抗原(Human leukocyte antigen,HLA)の進化機構の解明を目指しています。まだ未解明な点は多いですが、HLAは様々な病原体を認識するために、他の遺伝子と比べて対立遺伝子系統の寿命が非常に長いです。また、過去には病原体である熱帯熱マラリア原虫 Plasmodium falciparum を対象に、ヒトとの共進化に焦点を当て、集団遺伝学・分子進化学的解析を行っていました。

4.基質代謝酵素Cytochrome P450の分子進化

霊長目(サルの仲間)のCytochrome P450(CYP)、特にCYP2D酵素群(ヒトの薬物代謝酵素)を対象に、比較ゲノムおよび分子進化学的手法により解析を行っています。

■安河内彦輝のホームページは こちら